
あなた、・・・・・・大バカよ。
・・・・・・ええ。そうかもしれないわね。電撃文庫さん刊行、雨宮諒著『シゴフミ』についての雑感を今回は綴っていきます。
Espliaあらすじ
死に際、残された大事な人へと、己の言葉を伝える最後の手紙――死後文(しごふみ)。
その配達者である少女「文伽」と相棒にして喋る杖、通称マジックアイテムの「マヤマ」は仕事に追われながらも、様々な死者達、そしてその想い人達と出会っていく。
読み終わった印象は「
下地が良いだけに、王道展開が欲しかった」というところでしょうか。
本編で文伽に関わる人間は、自らを「半身」と称する血のつながりさえない少女二人、有名マジシャンとその恋人、フェンシングの名手である父とその娘、などといったやや
奇抜なラインナップで、恐らくはライトノベルを好んで購入する年齢層が持ちうる知識や体験の枠組みが多少なり、ズレていることが印象的でした。
こと読み物において、「
他の作品と一線を画す特色を持つ」ということは、確かに素晴らしいポテンシャルであることは疑いようなく、事実、こういった日常触れ合うことのない知識を動因した物語は多くの新鮮な気持ちを味わわせてもらいました。
ただ、素材が奇抜ならば奇抜な分だけ、
読み手からの理解が得ずらい方向性になっていることも事実ではないでしょうか。
シゴフミという関連から死後を扱い、転じて、
非常に繊細な人間の心の機微を描写し、またはそれに感動させることが物語の本懐となることは想像に難しくありません。さらに加えれば、その感動を呼び寄せる起爆剤となるのは、
読み手との深い共感ないし理解が大前提となっているわけですね。
その点でいえば、今作――第一巻の登場人物としては、やや
王道的な魅力に欠けているように見えてしまいました。
あとがきでも書かれているように、本作は既に、次巻刊行への土台が出来上がっている事実も見受けられことも含め、なおさら「だったら最初くらいは王道がよかったなぁ」というのが本音がもれてしまいます。
死後の文の預かる、という素晴らしい物語を生み出せる下地があるにも関わらず、その素材を奇抜な味で上塗りしていしまうことは、高級な蕎麦粉から丹念に打ち出した
手打ちの蕎麦にカレーをかけ、カレー南蛮にしてしまうような歯痒さ(意味不明)を覚えてしまいました。
確かに美味しいのですが、せっかくならば素材の味を楽しみたいですよね。
ただ、一応は主人公格にあたるであろうキャラクターの、
文伽、マヤマの両名の掛け合いは実に和むもので、特に文伽の一瞬目を離すと空気に溶けて消えてしまいそうな存在の透明感と、上記に引用した、味のあるセリフのギャップは新鮮でしたね。
また、物語の随所で見られる文伽の冷徹な仕事人になりきれていない人情溢れる部分においては、「
どうしてそういった人格になりえたのか」、「
他の配達人とどう違うのか」などの疑問点に溢れ、次巻以降への期待値が個人的になかなか高くなりました。
自称マジックアイテム、という謎めいた存在のマヤマも、時雨沢恵一著『キノの旅』で登場する、話すモトラド「エルメス」のようなマスコット的、かつボケ役をキチンとこなしているほか、どう頑張っても
深刻になってしまう物語において空気を和らげる役割を持つ、彼(彼女?)の存在は、今作における見所の一つだと想います。
彼についても、どうして人間の心を知りたいのか、という点において、次巻以降の話が気になるところですね。
ほか、物語以外で気になった所は、単純に言えば、要所要素に挟まる
挿し絵がせっかく物語を邪魔しているように見受けられた点、でしょうか。
ライトノベルとはいえ、それはあくまでも「本」であり、あくまでも「物語」であることは言うまでもなく、そこで挿し絵に対して文句をつけることは、「読み物感想」として
非常に下世話なものだということは重々承知しております。
しかし、今作が文章を構成する一つ一つの文字をゆっくりと咀嚼し、その素朴な味わいを楽しむ「静かな感動」がウリの物語であるにも関わらず、ああまで挿し絵を挟むのは、読み手の心にやや情緒に欠けるよう感じられました。
泣く、と言っても、それがどんな表情で泣いているのか。笑う、と言っても、どんな気持ちで泣いているのか。本編において、こういった登場人物たちの
心の機微を想像するのが、少なからず演出の一端であるように感じられた私としては、その場面を「絵」という表現で
画一化してしまうのはもったいないとさえ、思いました。
以前感想で書かせていただいた柴村仁著『プシュケの涙』のように、などと言ってしまうと角が立つかもしれませんが、もう少し、絵と文章のバランスを一考したほうが、より面白くなったかもしれません。
【総評】
死の際、想い人へ残す最後の手紙を巡る物語。
という。筆者の手腕によっては幾らでも感動的な物語が生み出せそうな
良質の素材があるにも関わらず、読み手の知識や経験とかなり掛け離れた登場人物を起用してしまったことで、第一巻ながらも「
王道の展開が無い」、やや共感を呼び辛い内容となってしまっていることが非常に残念な作品でした。
しかし、主要人物である「文伽」、「マヤマ」の掛け合いの面白さ、様々あるセリフの一つ一つに深みが感じられる点などから、今作では語られなかった彼ら自身のバックボーンが後々綴られる可能性を思うと、現金ながらも購買意欲が沸き立ちましたね。それほどに
主人公側のキャラクターの描き方は魅力的でした。
不本意ながらも文章以外では、詳しく描かれない登場人物たちの心の機微、またはその行間、表情などを想像する楽しさがある本編にも関わらず、
数多くの挿し絵が記載されていることによって、独自の解釈を糊塗し、画一化してしまっている点がやや気になりました。
感情の表現は、単純な喜怒哀楽だけでは表現できない様々な色をもっているものですから。こういった「静かに感動」できる作品では
自重してもらいたかった、というのが本音です。
いろいろと惜しい点はありますが、
なかなか味わい深い作品でしたので、気になった方は購入を検討してみてください。
読了お疲れ様でした。
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