espliaのちょっとだけ時代遅れ。

生むは雑感、生きるは過去、ちょっと遅れた感想中心ブログ。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*
スポンサー広告 ○ Trackback:- ● Comment:-○

東方SS 『東方守命魂』プロローグ

予告通り、恥ずかしながらも書かせていただきました東方SS、そのプロローグを掲載させていただきました。

東方について全く知識の無い方はもちろん、出来の悪い小説に嫌悪感を覚える方。単純に長文を読みたくない方も、続きをクリックしない方がよろしいかと存じます。


そこまで注意を受けて、なお読もうとするツワモノの貴方は、↓をクリックして続きを出してください。




※する人がいないことは十分わかっておりますが、無断での転載、及びコピー&ペーストはご自重ください。


以下より本編








机の影。椅子の影。

そこには無数の影があった。


「で? 結局犯人は死後硬直を早めるために死体を冷凍庫に入れたのかしら?」

一つの影は、そう疑問し、机に広げたスナック菓子に手を伸ばした。

「まぁ、大筋だとそう読み取れますけどー・・・、あとで解体用のスライサーに掛けるなら冷やそうか冷やさなかろうが同じじゃないですかぁ?」

一つの影は、そう小馬鹿にして、菓子の香料に満たされた口にペットボトルの茶を含んだ。

「馬鹿ね。スライサーっていうのは凍らせた肉を切るためのものよ。中身がゆるゆるの、・・・そうねぇ、例えばお湯を入れたカップラーメンをスライサーで切ったって中身がデルデル出ちゃうだけよ。わざわざ50メートル近くも死体を運んでからスライサーに掛ける意味がないわ。
ってちょっと! 全部食べないでよ!」

一つの影は、そう慌てながら、机に置かれたものとは別の菓子袋に慌てて手を伸ばした。

「それじゃあ、やっぱり姉さんの意見が正しいのね」

一つの影は、そう神妙に頷いて、机に零れたお茶を几帳面にハンカチで拭いた。

「待て待て。第一この死体は犯人が残虐性を持っている、ってミスリードを牽引するための土台だろうが」

一つの影は、そう詰まらなそうに突っぱねてから、大きな口を開け、気だるそうにあくびをした。

「つまり。そう、つまり。これは事件の真相には全く関係のないブラフだと?」

一つの影は、そうまとめて「私」に意識を向けた。


「そうですね。それで問題ないと思いますよ」

そして一つの影は、これまた「いつもどおり」そう答えて、再び彼らの声に耳を傾けた。


無数の無機物が作る、無数の影に囲まれた彼らの談笑。
それは辺りが薄紅色に染まっても、夕闇に包まれても。――恐らくは星が瞬くその時まで、延々と続いていくに違いなかった。

平凡とした繰り返しの日常の中で、唯一心から笑うことのできたひと時は、皆が望めば、恐らく何十年にも渡って続いていただろう。

それほどに我々の結束は硬く、酷く歪みながらも、断固不断のものであったとも思う。


しかし、終幕はいつだって傍に忍び寄っていた。

歪な心を持つ我々が、暖めあうように寄り合い、語り合ったところで、生まれる物語に幸福は訪れない。


数年後、それを私はこの身をもって知ることになる。




告白しよう。
これは、私――和泉智明(いずみともあき)の持つ。


最後の記憶でしかない。



喜びも怒りも哀しみも楽しみも、後悔や幸福でさえ、すべてを「ここ」に置いて来た。









ご注意。


この物語は、上海アリス幻楽団、東方projectの二次創作作品です。
また本編に登場する固有名詞は、現存するあらゆる事物と一切関連はありません。

本シリーズは「幻想入り」の体勢を取っており、オリジナルキャラクター及びオリジナルの設定が随所に見られます。












東方守命魂(とうほうしゅめいこん)









そして、彼女は目を覚ました。



怜悧な黄金の輝きに、墨を一滴。
高貴なエメラルドの輝きに、人血を一滴。

完璧な色。完全な調和。
そこから一滴分の悪意を込められた色を、私は持っている。

具体的には、髪。そして瞳の色のことである。

「・・・・・・今日も最高に物足りない容姿ね」

寝起きに乱れた髪に朱塗りの櫛を通しながら、少女が気だるげな眼を鏡向こうの自分に注いだ。
寝起きのためか、やや扇状に広がった金というには少し翳りのある頭髪の色は、薄暗い家にあってなお、淀んでいるように見えた。
また、鮮やかというには少し赤みの掛かった緑色の瞳は、同じく寝起きのためか、険しさと剣呑さに濁った輝きを放っている。


少女が座すのは、現代の若者からみれば、「文化遺産」なる太古の置き土産にさえ見えるであろう、朽ち果てた山小屋の中であった。
かたく踏まれた土の上にゴザを敷いただけの凍える床、風雨一つで陥落しそうな乾拭きの屋根に、居間の(といっても一区画しかないが)中央に、デンと据えられた年代物の囲炉裏。
他には、米を炊くかまど、壁に干されて縮れた大根、調味料を納めた樽、井戸水で満たされた水瓶などが目に入った。

そこはかとない生活臭が、にじみ出ている。

しかし唯一。籐で編まれた座椅子の先、蓮華の彫刻があしらわれた、古いながらも掃除の行き届いた化粧台、そして、そこに据えられたやや曇った大きめの鏡だけが、この家主の女らしさを極めて控えめに、主張していた。



時刻はすでに太陽が地平から顔を出すであろう時分。

「朝」――、とは表現しても、事実、まったく変わることの無い薄暗い景色へと、窓越しに微量の視線を送りながら、少女――水橋パルスィは焦りを覚えていた。
「ああもう。なんで刎ねるのよ」
座椅子の横に置いた桶の中、香料代わりに干した椿を落とした井戸水を掬い、曲がった髪の毛を掴んでは、下へ下へと慎重に落としていく。
が。
「あ、・・・・あー・・・」
元来持つ髪のうねりの前には、まさに戦車に竹やり。悪あがきにしかならなかった。
一度は水を受け入れ、若干の修正こそかかるものの、水が渇いていくにつれ髪は、やっぱり左右にゆるく広がっていくのである。
断じて言うが、無論これは寝癖ではない。
 だが寝癖であればいいとも思う。

「めんどくさい」

もういい。そう呟き、開いた窓から井戸水を乱暴に捨て、寝巻きから普段着へと着替えた。袂を開くと、素肌に冷えた空気が突き刺さる。
――寒い。
開かれた窓の先、雪こそ降っていなかったが、この調子では地面に霜くらいは、張っているだろう。
土間に近い床からは、遺憾なく冷えが着ていた。春の兆しは恐らくまだ遠い。
――畑、大丈夫かしら。
パルスィは少し悩み、結局足袋を二枚重ねて履くことで対処し、最後の確認に再び姿見にうろんな瞳を向けた
「・・・・・・」
色気の無い肢体。堅く、どこか苛立たしげな相貌には、もはや溜め息も尽きた。
ただ若干、執拗に濡らしすぎた髪が、湯上りというよりは、溺死あがりの死霊にしか見えなかったため、傍に干されていた洗いざらしの手ぬぐいで髪をぐしゃぐしゃ、先ほどの努力とともに拭いとった。
黒地のスカートに微量ひっついていた毛玉も摘み、くずかごに放り込むなり、パルスィは無言で外へ出た。


その途端、炉に火をくべたような焦げ付いた、どこか甘さを感じさせる臭気の風が、パルスィをゆるく包んだ。
「仕事熱心だこと」
視線をある方向――忌み疎まれた妖怪を家主とする地霊殿――に向けてから、嗅ぎなれながらも、決して拭えない不快の念に眉根を寄せたまま、小屋の側面へと歩いて行く。

たどり着いた先には、彼女が住処とする小屋と同じ程度の面積を持つ菜園があった。
――やっぱり霜が降りてる
ウネを踏まないように注意しながら、菜園の奥、そこに植えられた一抱えはありそうな白菜に、霜の張った土をサクサクと踏み込みながら近づいた。
葉を指でなぞると、白く霜で化粧がされた葉から、指でなぞった分だけ霜がはがれ、淡い緑色の葉が光に映えた。出来に問題はなさそうだった。

パルスィは頭上。畑を照らす光の源をまぶしそうに見上げた。



そこは地底の天井にあたる岩肌と鍾乳石に覆われた一角であったが、今はその一部が抉(えぐ)れていて、人が雄に4人は通れそうな大穴が開いていた。
彼女の顔を優しく包む光は、昇ったばかりの日――地上からの曙光(しょこう)、その恩恵である。


堅い岩肌に覆われたこの場所、――地底とも、一説には「旧地獄」とも呼ばれるここら一帯には、言わずもがな、日の光が差し込む場所などほとんどなかった。

パルスィの知る限り、この山小屋とその周辺だけが唯一、その例外に当る場所だった。

ここは、地底で唯一繁栄する、鬼の守る町――通称「旧都」の南西部、とある施設から及ぼされる強烈な地熱の中和に利用される、大きな湖の傍に寄り添うように建てられた。

理由は、時に巨大にすぎる熱を中和させるため、熱湯と言える程にまで水温が上昇することもあるその湖に、稀有な頻度で、瞬間的に熱された湖底と冷えたままの湖水が反作用を起こし、爆発的な水流となって吹き上がる、地上でいうところの「間欠泉」が起こることに由来する。

最近、――正確には数ヶ月前だろうか。とある妖怪により前例がないほどに急激に上がった湖底の温度に因る、大規模な「間欠泉」がある日立ち昇り、地上と地底を繋ぐ大穴が開いたのだ。

それが、今パルスィの見上げる穴であり。
言ってみれば、被害ばかりが目に付く事件の顛末が与えた唯一の恩恵に他ならない。


もちろん、パルスィの住居がそれを予測してここに建てたられたわけではない。
地上へと繋がる大穴、地底で数少ない光の指す場所となった湖の一帯、そこに改めて居を移した、というのが正しい認識だ。

パルスィがもともと住んでいた家は、恐らく今でも旧都に存在するのだろうが、もともと地上から追いやられた際、鬼から与えられた仮住まいに愛着はなかったし、嗜好品、特に食料や酒を購入する分に気安い場所であったが、いかんせんパルスィの好む静けさとは無縁の場所だったのだ。

なつかしむ情はあれども、今更戻りたいとは思わなかった。

むしろ不便ながらも畑をつくり、遠大な湖と、天井から指す光。それら全てをこうして静寂と共に眺められる生活は、思っていた以上にパルスィの性格にあっていた。
間欠泉はもちろん、運が悪ければ数百度にまで達する地熱で蒸し焼きにされる可能性もあるにはあったが、不思議と恐怖心はなかった。



「立派。今日明日には収穫しても大丈夫そう」

旧都に居を構えていた時期にも、暇つぶしと実益を兼ねた簡易な菜園を作ったことはある、が、やはり日の光の有無は作物の出来に大きく影響を与えていたようだった。
己の拙い知識で育てたとは思えないほど丸まると肥えた白菜は、パルスィの顔より二周りほどの大きさがあったが、葉の先端まで栄養がしっかり行き渡り、葉脈の一つ一つがプックリと水気に膨れ、途方も無い瑞々しさに満ちている。
大満足の成果であった。

さっそく今日の夕方にでも収穫し、一つは保存用に塩漬けにして、残りは鍋物の材料にしていただこう。

日の光を利用した初めての収穫。その喜びを存分に味わえそうだと、パルスィは今日が始まって以降、はじめて目元をほころばせた。

「でもその前に、仕事」

寒冷に強い白菜と違って霜に弱いニンジンの上には「すだれ」をあらかじめ貼っておいた、かまぼこ状の屋根を置いて土で固定し、簡易の温室を作った後、パルスィはそのまま畑を過ぎて玄関前まで戻り、そのまま素通りした。

すると今度は一気に視界が開け、大穴から降り注ぐ光に若干の青さを返す湖が、眼前に広がった。
間欠泉の沸きあがる大きな湖とはこの場所のことである。
そしてその先。山小屋のある位置からちょうど十時の方角に、無骨な石造りの欄干に挟まれた、それなりに大きな橋が、長く遠くの陸地に跨るようにして掛かっていた。


この橋の通称を、門出橋(かどでばし)と呼ぶ。


これは、この地底一帯が「全盛期」であったころ、罪状を追った多くの魂が、地獄の業火へ焼かれに通る橋と言われ、古い歴史を有している。
数百年、あるいは数千年か、罪を濯ぐためにやってきた者たちの転生への「門出」を、これは数多く見守ってきたのだろう。

――とんだ皮肉ね。

だがもちろん、それは過去の話。
パルスィが地底に追いやられたよりも、そして恐らく生まれたよりもずっと前、ここは現世より爪弾かれ、「幻想」になった。

以前は幸か不幸か、にぎやかだったであろう橋上も、当然、今は見る影もない。
にぎやかに会話を楽しむ人々も、湖に石を投じる幼子も、逢引をする男女も、商いで大荷物を抱えた商人も、馬も、犬も、果ては罪人の魂ですら、この橋を渡る事はなかった。
彼女たった一人を除いては。

「よいしょ」

橋の袂のすぐそば。欄干の片側にパルスィは立ったまま、ゆっくりと全身を預けるように体重をかけ、寄りかかった。

人の通らなくなった橋で、橋を見守る。
それがパルスィに与えられた「仕事」だった。

――ああ。

今日も相変わらず、奇麗なだけの湖だ。





無意味か、と問われれば、無意味ではない、と答えよう。
でもきっと。必要か、と問われたら、ボチボチね、と私は答えてもしまうだろう。

「・・・・・・」

人通りのない、言い換えれば変化に乏しい景観を延々、ひたに眺めつづけることは、長い寿命を持つ妖怪にしても苦行に近い。
そしてそれは、いわゆる「どんちゃん騒ぎ」を嫌って、半ば旧都から逃げ出すように居を変えたパルスィであっても例外ではなかった。長い退屈は眠気も助長させる。

人の身に必要な塩も、過ぎれば毒となるよう、孤独や静寂もまた、過ぎれば心を病む。

パルスィに限っては、その許容量こそ大きい自負があったが、己以外の生活音、生活臭のしない毎日は、心に淀みとして、日々濁った色をつけてきている。

――失敗したな。

基本的に「お守」の最中、パルスィは古本屋で適当に見繕ってきた本を読んで過ごすことが多かった。しかし生憎、先月に買い貯めた分は、昨日読み終えた『もし自殺志願者が太宰治の『人間失格』を読んだら』をもって品切れであった。

ちなみに、「なんでこんな本を買ったんですか?」という謎の文言で締めくられていたその本は、昨日の内に夕食の薪(まき)となることが決定した。
実に良く燃えた。ざまぁない。


とにかく。どれほど悔やんでも、ないのものはない。
仕方なく、パルスィは半ば諦め気味に書物への未練を断ち切り、手持ち無沙汰な様相のまま、無表情にじっと湖面を眺めた。
たまには、見張りの本懐を果たすのも一興だろう、と思っての行動だった。

視線の先、数年に一度煮沸消毒が行われる水面には、当然生き物が住み着ける余地などなく、大穴が開いてからは時折誰が捨てていくのか大小のゴミがプカプカと浮き沈みを繰り返すばかりで、一遍の情緒も、面白みもあったものではない。

「どうせ落とすなら、もっと楽しいものにしなさいよ・・・・・・」

さすがにゴミあさりをするほど落ちぶれたつもりもないが、新聞の切れ端でも流れ着けば時間潰しくらいにはなるだろう。
今日ほど退屈な時間を過ごすくらいなら、知人と話し込むのも悪くない。少しばかりの喧(やかま)しくとも、今なら青筋程度で我慢くらいは出来そうだった。
しかし生憎、二日前にパルスィが締め出したっきり、恐らくは一番付き合いの長い――友人とは言うまい――妖怪からは、その後なんの音沙汰もない。

パルスィは、大きく溜め息を湖面に落とした。

自業自得の所業を行っておきながら、退屈なときは遊びに来いとのたまう。
そのあまりに自分本位の考え方は、己の身ながら吐き気を催すほどの身勝手さだった。

――いっそ桃でも流れてこないかしら。

そんな突拍子もないことをふと、思いついた。
「桃から生まれた桃太郎。鬼を倒しに鬼が島へ」
自身が紛れもなく、鬼に分類されるであろう私が拾うのも、それはそれで面白そうだった。

――でも子育てしないといけないのは嫌ね。

正直にいえば、子供は嫌いだ。
よく、「子供を嫌う輩は、己が子供であることを証明している」などという風説があるが、私の場合――人よりも多くの年月を生きる私の場合も、そうなのだろうか。

ぷくぷくとした腕や頬を触り、その暖かさと柔らかさを愛でることそのものは確かに楽しそうだ。が、食事の世話や下の世話が絡んでくると、さすがに喜べそうも無い。
特に、あの耳を割かんばかりに猛り、吼えるような鳴き声を夜通し聞かせられたら発狂する自信すらある。
 

どれほど年月を重ねようとも、一向に子供を好きになれないの己は果して元来の性か。はたまたパルスィの中の成長という時計が、あの時から一分(いちぶ)たりとも動いていないのか。

――桃はいい。いらない。

ゆるやかな光彩を返す水面を覗いていると、どうにも思考が、暗い方向に落ちていきそうになる。だからこそ、パルスィはただ悪戯に時を過ごすのは嫌いだった。
今が夜でなくて、本当によかった。

欄干から腕を引き剥がし、パルスィはそのまま反対側の欄干の根元に腰を下ろした。
その内、ゴツゴツとしたながらも、しっかりと成型された石の柱の一本に背中を預け、ゆっくりと体重を掛ける。
そして更に身を縮めるように足を抱えて、三角座り。

このまま無為に過ごすくららいなら、ゆったりとまどろむ位が調度よい。
つまりはまぁ、ちょっと早い昼寝と洒落込もうというわけだ。

橋のお守があるため、完全に寝付かないように座りながらの出立(しゅったつ)となるが、慢性的な寝不足を引きずる今のパルスィならば夢を見ることもないだろう。ちょっと腰は冷えるけど。

そうして、ゆったり船を漕いでいる間に、橋のお守の終了を告げる鈴の音が聞こえてくれば、最高だ。午後はこのまま旧都にいって、古本の買いだめもしていこう。

そう思うと。ゆっくりと瞼を落とした。その裏から、曙光がほの赤い光となって目を焼くが、その妨害の生ぬるさが妙に心地よかった。

目を閉じると、やけに他の五感が鋭敏になったように感じられる。
言い尽くされた言葉だが、実感するとこれがやけに真新しい。

橋の根元に当り、返す波がチャプチャプと音を立てる湖水の囃子(はやし)。
腰元から伝わってくる冷気と、頭上に降り注ぐ柔らかな温もり。
静謐とは言いがたいが、ゆったり吸い込めば水気に満ちた風の味わいは、こうしてみるとなかなかのものだ。
何かを焼く、やや甘いような香気の中、半紙に水滴を零したようにゆったりとした速度で、何かさびた鉄のような臭いが、・・・・・した。

ふと、パルスィはそこで違和感を覚えた。

――さびた鉄の、臭い?

「何かしら」

傍から見れば、驚くような素早さでパルスィは立ち上がり、あたりを見回した。
しかし見えるのは、今朝出てきた木造の家、そして今自分の立つ、石造りの橋だけだ。鉄の錆びた臭いなど発っせられるわけもない建造物ばかり。

気のせい、だろうか。

だが、どこか寒気すら催す鉄の香りは、消えることなく、むしろ次第に強くなってきていた。
地底を覆う、何かを焦がしたような臭いに邪魔をされがちだが、たしかに臭気は彼女の鼻に臭いを擦りつけてくる。

そして、それはなにか、とても嗅ぎなれたもののように思えた。

――湖か?

欄干に手を掛け、一息でその上に立ちあがるなり、パルスィは湖面に目を凝らした。
すると、到底隠されていたとは思えない明け透けな格好で水面にユラユラと浮かぶ、「それ」に気付き、瞬間、橋から文字通り飛び出した。


何か流れてこないかな。なんて、仕事の最中に願ったバチだとでも言うのだろうか。
橋の上で、船を漕ぐことも許されないなんて、こんな理不尽があってもいいのだろうか。


「まったく――」


どうして、本を切らしていたことに気付かなかったのか。
なぜ、今日寝過ごしてしまわなかったのか。
そんな、考えたところでどうしようもないことばかりが脳裏に浮かんでは消えた。


そしてパルスィは、ついに肉眼で捉えきった不快な「物体」、――湖面を斑(まだら)に赤く染める「人間の水死体」と思しき影に向かい、ありったけの呪詛を篭めて吐き捨てた。

気付かなければ、ただ平穏なだけの一日だったのに。


本当に、

「妬ましい・・・!」







「水死体」どーん。



となったここまでが、一応プロローグになります。

主人公、冒頭以外で全く出ていませんが、今後しっかり登場させますのでお待ちください。

このプロローグは、パルスィが地霊殿の事件後、どのように生活していたかを綴りながら、舞台となる地底について、また間欠泉や橋を見守る「仕事」についての説明を主とさせていただいております。目立ったアクションはおろか、行動範囲が狭いのは仕様です。
また、プロローグといっても、物語全体で見れば30分の1程度の進み具合なので、文章量はかなり少なめです。ご容赦ください。

これからも不定期に続きを挙げていくので、気になった方も、気にならない方も、よろしければ今後もお付き合いください。



長文読了、お疲れ様でした。


esplia

スポンサーサイト
*
○2011/02/11○
最初の方を「東方菜園魂」じゃね?とか思いながら読ませていただきました。

主人公が水死体というのもなかなか斬新だな!え?違いますか、そうですか。

>『もし自殺志願者が太宰治の『人間失格』を読んだら』
「なんでこんなタイトルにしたんですか?」
[ 編集 ]
○2011/02/11○
> 最初の方を「東方菜園魂」じゃね?とか思いながら読ませていただきました。

私の中のパルスィは、野菜や花を育てるのが好きなイメージなんですよねぇ。
おまけにちょっと無表情で水とかやってるんだけど、心の中ではしっかり可愛がっているようなry(以下妄想)

> 主人公が水死体というのもなかなか斬新だな!え?違いますか、そうですか。

水死体、というキワードは実はパルスィが髪の毛をぬらし過ぎて「溺死あがりの死霊」っぽい外見になったことからきてます。主人公とヒロインが同属性というか、まぁお遊びの領域を抜けません。

> >『もし自殺志願者が太宰治の『人間失格』を読んだら』
> 「なんでこんなタイトルにしたんですか?」

ちょっと前だけど、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 』という本が有名になったので、それを文字ってタイトルをつけさせてもらいました。いわゆるオマージュって奴ですね。
気になったら「もしドラ」でググってくだされい。
[ 編集 ]
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL


twitter
ブログに対する掲示板の役割を兼ねておりますので、出来うる限りこちらにも目を通していただけるとありがたいです。

フォローしてくださるお方は「esplia」と検索して頂くと簡単に見つけられると思います。


espliaの生態


esplia

Author:esplia


【読書中小説】
神様のいない日曜日
幕末魔法士
KAGUYA~月の兎の銀の箱舟~
文学少女と死にたがりの道化
中の下!
曲矢さんのエア彼氏


【プレイ中(&予定)ゲーム】
黄昏のシンセミア
elona
グリザイアの果実
はつゆきさくら【済】
穢翼のユースティア【済】


【鑑賞中音楽】
嘆きの音
Dead End
borderland
少年よ我にかえれ
ノルエル
灰色の水曜日


【オススメゲーム】
FLYABLE HEART
永遠のアセリア(なるかな含)
遥かに仰ぎ、麗しの
装甲悪鬼村正
Fate stay night(hollow含)
てのひらを、たいように
月光のカルネヴァーレ
君の名残は静かに揺れて
BALDRシリーズ(戯画)
ひぐらしのなく頃にシリーズ
うみねこのなく頃にシリーズ
東方シリーズ(SLG、文、WS含)
夜明け前より瑠璃色な
CROSS†CHANNEL
リトルバスターズ!
CLANNAD
STEINS;GATE


恒久的に不定期更新ですが、
よろしくお願いします。

週一更新005


当ブログはリンクフリーです。
こちらから打診した場合は了承があるまでリンクには追加いたしません。

ブログ内検索
ブロとも申請フォーム
メールフォーム
相互リンクの申請は、
「ブロとも申請フォーム」
または、
ここにお願いします。

名前:
メール:
件名:
本文:



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。