――全てが、耐え難いくらいに、鮮明に。
だから・・・・・・
書いたことを全て忘れることができるノートってありませんか?電気文庫さん刊行、御堂彰彦著『付喪堂骨董店【不思議取り扱います】』についての雑感を今回は綴っていきます。
Espliaのあらすじ
それは骨董という意味ではなく、不可思議な力を持つ超常物として“アンティーク”と呼ばれるアイテムが、この世にはあった。それは例えば、幸運を呼ぶ石。髪の伸びる人形。
付喪堂骨董店―fake―は、そんな“アンティーク”の「贋作」を扱う店である。
そこで従業員として働く「刻也(ときや)」と「咲(さき)」は、本物の“アンティーク”が起こす様々な事件へと巻き込まれていく。
読み終わった感想は「
キャラクターへの掘り下げが薄いことで、物語にのめり込み難い部分が多々見られた作品」といったところでしょうか。
作品の形態は、簡易のあらすじに書いたよう、不思議な力を有する“アンティーク”という呪具を巡って起こる事件が小話形式で収集された、いわば
短編集というべきものであります。
ただ、作中で殊更クローズアップされるのは、毎度登場する“アンティーク”の不可思議な能力とそれを巡った事件「のみ」で、事件に関わりを持つ「刻也」達
主人公側の人間についての過去やバックボーン、心理には基本、全く言及がされていません。(第四章に関しては例外)
それ故に、彼等の活躍や懊悩といった
王道的な要素が半減してしまい、事件の奇特さや物語の構成などに、面白さの比重が偏ってしまっているよう、感じられました。
有体に言えば、実に淡白かつ「
薄味」。それを短編集特有の気軽さとして良しと見るか、悪しと見るかは、意見が分かれそうです。
第一章に関しては、一人称、二人称を上手く使った叙述トリックを含め、数多の伏線を意欲的に配置した、
野心的な作風と、「偶然を必然として起こす」“アンティーク”を巡った心の闇がうまく描写されていたことが印象的な作品であり。
第二章にしても、主人公側ではないものの、
とある重要人物の心理描写が各所で綿密に展開され、後半への展開のつなげ方に十全の納得と理解が得られるような配置が工夫されており、これまた上手い印象を持ちました。
その一方で、第三章は、配した伏線が、
「伏」線でありながらも、最初から違和感を放ってしまうという致命的な事実が仇となり、後半の唐突な展開も相まって、そのスピード感に読者が振り落とされていてしまっている感覚があり。
第四章は、初めて、主人公側のキャラクターのみ登場するアットホームな物語構成でありながら、今まで掘り下げの無かった
傍観者としての立場が強くかった人物たちに、いきなり惚れた腫れたの
恋愛話を持ってこられても(実質的な違うのだろうが)共感ができないこと。また、第三章同様、
伏線があまりにも露骨すぎることから驚きが薄いことが大きな失点になってしまっているよう思いました。
総じて。本編で重要な物語の構成に関して、
面白く感じられたのが、五分五分といった按配になってしまっている点は憂慮すべきでしょう。
キャラクターに関しても、ヒロインである「咲」が、天然である上、表面上とっつき難く、かといって辛辣過ぎる訳でもない
微妙なバランス(絶妙ではない)の上に立っていること、主人公たる「刻也」の
表面的な性格の悪さが前面に押し出されていること、などの理由から、双方あまり魅力的に感じなかったのも、作品の評価に影響を与えているように思いました。
せめて二人の出会いだとか、馴れ初めだとかのイベントが、一つや二つ用意されているのならば、表面的なセリフの裏側を想像する楽しみが生まれるのですが。それがない以上、想像を広げるにはやはり限界というものがありますね。
最後。
個人的に気になったことは、不思議な道具を巡った不可思議な物語でありながら、その大半が「
血生臭い事件」との関連しか持たず、同じく不思議な道具を巡る物語である『XXXHOLiC』とは違い、
情緒に訴えかけるような静かな話がなかったことが残念でしたね。
小話形式ゆえの読みやすさ、キャラクターの掘り下げが少ないからこそ、実現する
薄味な物語。
その作風を理解した上で、なお気になるという方は読んでみてはいかがでしょうか。
読了お疲れ様でした。
※東方SS第二章【前編】の掲載がそろそろ現実味を帯びてまいりましたので、17日の夜に更新させていただく旨をご報告申し上げます。難産ゆえ、今回は今まで以上に見苦しい文章となってしまいましたが、長くお待たせしましたことをお詫びいたします。
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