espliaのちょっとだけ時代遅れ。

生むは雑感、生きるは過去、ちょっと遅れた感想中心ブログ。

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SHI-NO―シノ― 黒き魂の少女、雑感

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僕はやはり、君に優しい人になって欲しい。幸せになって欲しい。普通の大人で構わないから、笑顔を見せて欲しい。

人の死に泣いて、殺人事件を怖がって、教科書どおりで良いから「自殺はいけないことです」って言って欲しい。




富士見ミステリー文庫さん刊行、上月雨音著『SHI-NO―シノ―黒き魂の少女』についての雑感を今回は綴っていきます。



Espliaのあらすじ

これは、殺人事件や自殺、猟奇的な事件に興味を示す、無口な少女、「支倉志乃(はせくらしの)」と彼女の兄・・・のような「僕」の物語。

二人は、ある婦女暴行事件をきっかけに、集団自殺サイトとそこに流布された「デッドエンドコンプレックス」の意味に関わりをもっていく。


読み終わった所感は、「ミステリーとは呼びたくない作品」といったところでしょうか。


まず、私が今作で嫌悪を感じたのは、文章中に蔓延する詩的な表現、またそれが示すであろう筆者自身の意見そのものでした。


例えば、今作の登場人物の一人である「鴻池(こうのいけ)キララ」の述べる、「教育とは大人から子供への洗脳で、良い子に育って欲しい願うのは、親の傲慢」という理屈が、本編では一部正論として扱われていますが、これはかなり破綻した考え方だと私は考えます。


教育制度は、日本という括りこそ出来てしまいますが、充溢したものであることを疑う人はそれほどいないと思われます。それは同時に、子供が教育に知識面での依存を示唆しているとも言えるでしょう。


しかし、通常、教師から教えられた知識こそが「絶対に正しい」と教えることはまずありませんし、子供自身、教員に教わった知識、思想に盲目的に従っているということもありません。


本編で言うところの、「子供は人の死に関わるべきではない」、という大人の考えは子供の心を解かったように言っている節があることは認めましょう。
しかし、それを子供が絶対的な命令と受け取ることは、まずありえません。


親に何を言われようと、男はエロ本読み漁るように、若い身空で子供を作る若者がいるように、同級生をいじめる子供が確実に今も存在することもまた。それを暗示しています。


将来、様々な場面で「指針」とするための知識を与える。そのための教育を「洗脳」の呼び、従わないと解かっていても、良い子に育って欲しい、そう願う親の気持ちを「傲慢」などと呼ぶことは、断じて許されることではないでしょう。

それが例え、洗脳的な教育を施す不届き者の親がいたとしても、彼らと我々を混同して語られたくはありません。


僕らにエゴを押し付けないでください」なんてことを、得意げに語っている輩こそが、その純然たる教育を受けた証拠なのですから。


わき道に逸れすぎたので、この話題はここでひとまず終了します。



次に気にあったのは、主にト書き部分で書かれる、志乃や僕の内情、そこで語られる「生と死」の概念についての記述が、内容はともかく、何度も繰り返されている点です。

また、そこに詩的な表現技法を用いているためか、単語区切りで改行を繰り返し、非常に読み辛い上、結局何が言いたいのかが意図的にボカされているなど、どうにも水増し感が否めません。(特にP85~P88は酷い)


ただでさえ約230ページという短い物語を、そんな詰らない文章で削るくらいならば、もっと他にミステリーとして書き込むべきものがあったのではないでしょうか。


内情表現というのは、物語、ひいては主人公などのキャラクターを理解する上で重要なファクターとなっていることは否定しません。が、それは例えばスーパーダッシュ文庫さん刊行の『紅』、主人公の「紅真九郎」が道すがら訥々(とつとつ)と内情を吐露している「悩み」だとか「将来の不安」だとか、しっかりと形があるものならば問題はないのですが、

  光が見える。
  眩い輝き。
  輝きは赤。
  血の様な、一面の赤。(本書籍、P86、7項~10項引用)

というようなインスピレーションのみで綴っているような文面を、約3ページに渡って続けていくことは、どう贔屓目に見ても筆者だけの満足に過ぎません




気になった点は更にもう一つあります。

上に記した「筆者のみの満足」の煽りかどうかは判断しかねますが、本編では通常のミステリー作品で言うところの「検証シーンというものがほとんどありません


犯行に使われた凶器の検証、犯人像への推理、密室殺人があればその定義や、確認などなど、読者の推理を時に乱し、時に助ける、いわゆるミステリーでもっとも面白い部分が無いに等しく、正直に言ってこの作品をミステリーという枠組みに入れてほしくありません


登場する密室も、警察が鑑定したのかどうかの確証がなく、また部屋のどこにも凶器を隠せる場所はない、と言いながらも、例えば熱で溶ける素材で凶器を作り出した場合(氷など)、何かに偽装させてある可能性についての言及が見られず、挙句「探偵役」たる志乃が、「無口かつ無愛想で天才」という描写栄えしない性格のため、読み手との共感性は愚か、事件に対する考察や、彼女自身の動向さえも解かりにくく、物語への入り込み難さを禁じ得ないことも、大きく評価を下げるポイントとなりました。


ただ、無愛想な志乃と、主人公である「僕」の対話や、いっしょに生活していく上での問題など、事件とは無縁の日常に関しては、読んでいて微笑ましい部分が多く、小話形式ではなく、一つの事件に集中し、もう少し現場検証、志乃の考察や伏線をたっぷりと本編にちりばめていけば良い作品になるのではないでしょうか。





【総評】

志乃と「僕」の日常的な会話や、二人の口に出さない信頼関係が垣間見える部分が非常に魅力的に映ったのと対照的に、ミステリーの面白さを生み出す、密室の定義の確認、探偵役の考察や、現場検証、伏線の回収などがほぼ淘汰(とうた)され、ページ数の関係からほとんど推理する間もなく真相が判明してしまうため、ミステリー作品とは呼びがたい作品になってしまっています


また上では触れませんでしたが、自殺サイト関連の殺人事件のほかに、「吸血鬼連続殺人事件」というわき道に逸れることがありますが、そちらに関しては犯人視点から事件の概要が序盤から語られる上、志乃がどうして真相に気がついたのかの考察もなく、非常に退屈と言わざるを得ない物語が組み込まれていること、加え、よく言えば詩的、悪く言えば、ただインスピレーションのまま言葉を吐き出す意味不明な文章が多く(引用は上記)、全体的な水増し感が拭えません。


もう少し、ミステリーとしての体裁を繕う場面構成、人物描写にそれらで使い潰した文章を宛てれば、一個の作品としてより良いものを作れたのでは、と思えてなりませんでした。


筆者の思想に共感できない部分もあり、非常に残念な作品という感想に終始しています。


一、二巻あわせて50円で販売されていたため購入してしまいましたが、がっかり感が強かったですね。(なので二巻も不本意ながら感想を書かせていただきます)


単純に絵柄が気に入った方、万が一にも内容が気になった方などがいらっしゃいましたら、よく一考した上で購入していただければ幸いです。







読了お疲れ様でした。
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銀色ふわり、雑感

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僕は今、初めて。
生まれて初めて。

運命に抗ってみようと思った。





電撃文庫さん刊行、有沢まみず著『銀色ふわり』についての雑感を今回は綴っていこうと思います。



Espliaのあらすじ

人の五感に映ることはなく、また自らも生き物を知覚出来ない。
生まれたときから誰にも、母親にでさえ見ることの適わなくなった「黄昏の子供たち(Dusk Children)」。そう呼ばれる存在が世界にいた。

ある日、「安住春道(あずみはるみち)」は学校からの帰り道に、一人の少女を目撃する。
彼女は銀の髪をもった美しい少女で、そして、こちらを酷く驚いた顔で見つめ返した。


読み終わった感想は、「久々に胸の熱くなる良い作品だった」というところでしょうか。


この作品には、はっきり言って特筆すべき魅力的なキャラクターが出て来るわけでもなければ、血湧き肉踊るような冒険活劇も、バトル要素も皆無です。
また昨今目覚しい、愛くるしい少女のお色気も、いわゆる「お約束の展開」も、三角関係も、痴情のもつれも、痴情そのものもありません。


あるのはただ、極端に感情の欠落した少年少女が、何気ない日常を通して徐々にお互いを理解していく、という方向性だけの希薄なもので、その物語は、時に「ありきたりな展開」などとも呼ばれてしまうような陳腐なものかもしれません


それでも、あえて断言します。私はこの作品が好きです
相変わらず解かり易くて恐縮ですが、こういう感動的な話、大好物なんです。


上記する引用のセリフ選びに苦心するぐらい、様々なセリフや、ト書き一つとっても、妙な虚脱感と、香るようにささやかな微量の幸福感、またその熱っぽさが感ぜられる文章の切なさが、本当にたまりませんでした。


正直なところ、この作品に表現技法を論って(あげつらって)評価を記す必要性はあまり感じません。むしろそれは失礼なことなのではないか、とさえ思います。


つまり。
読めばわかりますので、買ってください。

以上。







・・・・・・などど書いてしまうのも、それはそれで一興でしょうか。

しかしそれだと「感想」としてはあまりに独り善がりにすぎるので、もう少しだけこの作品について言及していきます。


さて。
私が本作が気に入っている理由の一つに「明確な終着点」が存在する、というものがあります。


所謂短編と呼ばれる作品でない以上、特に「ハーレムもの」、「日常もの」、更に言えばギャグを中心としてハートフルコメディの類は、通常、終着点というものをぼかしがちです


恐らく、その裏にある思想は、「楽しい時がずっと続けばいい」というようなある種誰もが望む理想の絵姿で、例えば、様々な美少女からモテる主人公が、ヒロイン格に粉を掛けながらも、次巻次巻で登場する女の子に次々翻弄されていく(翻弄されるという点のみでいうならば『とある魔術の禁書目録』『Cキューブ』、ジャンルは違いますが『恋姫†無双』などの)物語構成もこれにあたります。


商業的な観点から見た場合、主人公がたった一人の少女以外に見向きしなくなり、また作中に新しいキャラクターが入ってこないことは、視聴者並びキャラクターグッズを売り出したい企業側としては、好みが著しく狭まるため迎合しずらいものがあるのが事実です。


問題はそれが商業的に旨みがあり、また筆者にしては様々なキャラクターを生み出すことで会話のバリエーションを増やす恩恵があるとしても、都合上どうしても中だるみと、物語の薄っぺらさが感じられてしまう点にあるといえましょう。


その点今作は、主人公はヒロイン以外に断固見向きもせず、また到達すべき終着点が明確化されていることによって、良い意味での焦燥感と、悠長になりがちな物語に布石を打ち込むことによって意図的に中だるみを防ぐ方策をとっている点は、まさに物語のブレなさを物語っているともいえるでしょう。(ギャグじゃないです)


次巻を購入していないのでなんとも断言はできませんが、この一巻でのみ言わせて貰うならば、これほどしっかりとした「制限時間」、そして「楔」をあえて打ち込んだ筆者の熱意は評価すべきポイントと見なしても、問題はなさそうです。


また熱意といえば、上記に少し綴りましたが、登場人物たちの内面描写が非常に細かかったことも挙げられます。


本作は、キャラクターの属性、というもので考えれば、優男風の主人公と、薄幸+病弱少女、というような実に“ありきたり”なものであることは否定しません。


しかし「黄昏の子供たち」という、誰からも認識されない世界を、たった一人で生きてきた「銀花(ぎんか)」の孤独と、両親との離別によって、人に興味持つことができない幼少期を送った主人公の、恐らく読み手が共感できるわけもない内情を、多くの文章で明確に綴ることにより、彼らの、他人に甘えることを知らないもどかしさ、孤独を孤独と認識できないもの悲しさ、その訴えかけが非常に丁寧で、ありきたりな物語をより面白いものに仕立て上げている点には着目すべきでしょう。


中でも、お互いに足りない感情を知り、運命を受け入れるだけだった主人公が、言葉の弱さこそ残りましたが、明確に反旗を翻す決意をするシーンは拳を握りましたね



ただ一つだけ難点を挙げるとすれば。それは「主人公だけ認識することが出来る少女」が、どんな経緯があるにせよ、結果として主人公に思いを寄せる結末は、あまりに「必然といえば必然」で、そこに一種のズルさが感じられてしまう点でしょうか


いくら贔屓目に見て、主人公が信念をもって行動する「良い男」であったとしても、それ以外を知らない少女からみれば、それは頼るほか無いものであり、そこに主人公が主人公である必要性はあまりないわけですね。


一応、彼女には主人公に頼らず、たった一人でどこかへ行く、という選択肢もある以上、完全に主人公の性格が不必要か、といわれれば断じて否と答えましょう。それでも、状況としてはやや男性優位であることは疑いようもなく、そこに不快感を覚えるかたも少なからずいるのではないでしょうか


よく、病弱な少女や幼女など、人間として「極端に経験の少ない子女を好む」(ロリータコンプレックスとも言う)人たちを、自分の思いのままに支配できるという理由を加え、マチズモ、通称「男性優位主義」者、として見下す風潮があります。


数百人と付き合ってきた成熟した女性と、男の「お」の字も知らない少女では、汚い言葉で恐縮ですが「落としやすさ」に雲泥の差がある、ということですね


確かに、その思想を持ち出してしまえば、今作は「男性優位主義」の物語といえなくもありません。そしてそれは、銀花が春道に心を許す過程、描写をどういう視点で見定めるか、ということにも関わってくるでしょう。


そこに色眼鏡を掛けてしまい、純粋に文章を楽しめないと思う人は、残念ながら今作を良作としてみることはできないかもしれませんので、どうか留意してください。




【総評】

ありきたりなキャラクター、ありきたりなストーリー展開。

それは一個の物語で見れば、圧倒的に「アクション(動的)」要素の少ない物語でしたが、あえて主人公「春道」、ヒロイン「銀花」の内情、心情に多くの文章を割き、孤独ながらも必死に現実に立ち向かっていこうとする内面の強さを緻密に表現していったストーリーは、非常に胸の熱くなるような感動を孕んでいたように思いました。


とくに「黄昏の子供達」というファンタジーの要素があっても、それがどれほど苦しんできた人々で、どれだけ孤独であったか、その裏づけが山ほど用意されているため、理解が追いつかないどころか、妙なリアリティさえ感じられる表現力には頭が下がります。


主人公格の二人が無口なため、セリフは決して多くありませんが、孤独な二人が買い物に出かけたり、遊びに行ったりするときに見せる様々な心持が目に浮かぶようでありました


ただ、主人公だけを知覚出来る少女がヒロインということで、半ば慕われることが解かりきっている物語であること、それが「男性優位主義」による、読み手の独り善がりな優越感に頼っての感動である、と捉られてしまうことがないとも言えず、万人に等しく受け入れていただける類の物語であるとは残念ながら断言はできません

思いあたる節のある方は購入を控えるべきでしょう。



あえて書きますが、本書はかなりのオススメ品です。

今、最も冷える季節だからこそ、読んでもらいたい胸の熱くなる感動作。書店で見かけた際には是非是非、購入していただければ幸いです。







今回少し長くなりました。申し訳ありません。
更新もかなり遅れました。申し訳ありません。


読了お疲れ様でした。

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シゴフミ~stories of last letter~、雑感

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あなた、・・・・・・大バカよ。


・・・・・・ええ。そうかもしれないわね。





電撃文庫さん刊行、雨宮諒著『シゴフミ』についての雑感を今回は綴っていきます。



Espliaあらすじ

死に際、残された大事な人へと、己の言葉を伝える最後の手紙――死後文(しごふみ)。
その配達者である少女「文伽」と相棒にして喋る杖、通称マジックアイテムの「マヤマ」は仕事に追われながらも、様々な死者達、そしてその想い人達と出会っていく。


読み終わった印象は「下地が良いだけに、王道展開が欲しかった」というところでしょうか。


本編で文伽に関わる人間は、自らを「半身」と称する血のつながりさえない少女二人、有名マジシャンとその恋人、フェンシングの名手である父とその娘、などといったやや奇抜なラインナップで、恐らくはライトノベルを好んで購入する年齢層が持ちうる知識や体験の枠組みが多少なり、ズレていることが印象的でした。


こと読み物において、「他の作品と一線を画す特色を持つ」ということは、確かに素晴らしいポテンシャルであることは疑いようなく、事実、こういった日常触れ合うことのない知識を動因した物語は多くの新鮮な気持ちを味わわせてもらいました。


ただ、素材が奇抜ならば奇抜な分だけ、読み手からの理解が得ずらい方向性になっていることも事実ではないでしょうか。


シゴフミという関連から死後を扱い、転じて、非常に繊細な人間の心の機微を描写し、またはそれに感動させることが物語の本懐となることは想像に難しくありません。さらに加えれば、その感動を呼び寄せる起爆剤となるのは、読み手との深い共感ないし理解が大前提となっているわけですね。


その点でいえば、今作――第一巻の登場人物としては、やや王道的な魅力に欠けているように見えてしまいました


あとがきでも書かれているように、本作は既に、次巻刊行への土台が出来上がっている事実も見受けられことも含め、なおさら「だったら最初くらいは王道がよかったなぁ」というのが本音がもれてしまいます。


死後の文の預かる、という素晴らしい物語を生み出せる下地があるにも関わらず、その素材を奇抜な味で上塗りしていしまうことは、高級な蕎麦粉から丹念に打ち出した手打ちの蕎麦にカレーをかけ、カレー南蛮にしてしまうような歯痒さ(意味不明)を覚えてしまいました。


確かに美味しいのですが、せっかくならば素材の味を楽しみたいですよね。




ただ、一応は主人公格にあたるであろうキャラクターの、文伽、マヤマの両名の掛け合いは実に和むもので、特に文伽の一瞬目を離すと空気に溶けて消えてしまいそうな存在の透明感と、上記に引用した、味のあるセリフのギャップは新鮮でしたね。


また、物語の随所で見られる文伽の冷徹な仕事人になりきれていない人情溢れる部分においては、「どうしてそういった人格になりえたのか」、「他の配達人とどう違うのか」などの疑問点に溢れ、次巻以降への期待値が個人的になかなか高くなりました。


自称マジックアイテム、という謎めいた存在のマヤマも、時雨沢恵一著『キノの旅』で登場する、話すモトラド「エルメス」のようなマスコット的、かつボケ役をキチンとこなしているほか、どう頑張っても深刻になってしまう物語において空気を和らげる役割を持つ、彼(彼女?)の存在は、今作における見所の一つだと想います。


彼についても、どうして人間の心を知りたいのか、という点において、次巻以降の話が気になるところですね。



ほか、物語以外で気になった所は、単純に言えば、要所要素に挟まる挿し絵がせっかく物語を邪魔しているように見受けられた点、でしょうか。


ライトノベルとはいえ、それはあくまでも「本」であり、あくまでも「物語」であることは言うまでもなく、そこで挿し絵に対して文句をつけることは、「読み物感想」として非常に下世話なものだということは重々承知しております


しかし、今作が文章を構成する一つ一つの文字をゆっくりと咀嚼し、その素朴な味わいを楽しむ「静かな感動」がウリの物語であるにも関わらず、ああまで挿し絵を挟むのは、読み手の心にやや情緒に欠けるよう感じられました。


泣く、と言っても、それがどんな表情で泣いているのか。笑う、と言っても、どんな気持ちで泣いているのか。本編において、こういった登場人物たちの心の機微を想像するのが、少なからず演出の一端であるように感じられた私としては、その場面を「絵」という表現で画一化してしまうのはもったいないとさえ、思いました。


以前感想で書かせていただいた柴村仁著『プシュケの涙』のように、などと言ってしまうと角が立つかもしれませんが、もう少し、絵と文章のバランスを一考したほうが、より面白くなったかもしれません。






【総評】

死の際、想い人へ残す最後の手紙を巡る物語。

という。筆者の手腕によっては幾らでも感動的な物語が生み出せそうな良質の素材があるにも関わらず、読み手の知識や経験とかなり掛け離れた登場人物を起用してしまったことで、第一巻ながらも「王道の展開が無い」、やや共感を呼び辛い内容となってしまっていることが非常に残念な作品でした。


しかし、主要人物である「文伽」、「マヤマ」の掛け合いの面白さ、様々あるセリフの一つ一つに深みが感じられる点などから、今作では語られなかった彼ら自身のバックボーンが後々綴られる可能性を思うと、現金ながらも購買意欲が沸き立ちましたね。それほどに主人公側のキャラクターの描き方は魅力的でした


不本意ながらも文章以外では、詳しく描かれない登場人物たちの心の機微、またはその行間、表情などを想像する楽しさがある本編にも関わらず、数多くの挿し絵が記載されていることによって、独自の解釈を糊塗し、画一化してしまっている点がやや気になりました。


感情の表現は、単純な喜怒哀楽だけでは表現できない様々な色をもっているものですから。こういった「静かに感動」できる作品では自重してもらいたかった、というのが本音です。



いろいろと惜しい点はありますが、なかなか味わい深い作品でしたので、気になった方は購入を検討してみてください。






読了お疲れ様でした。
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9S〈ナインエス〉、雑感

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心配するな。この日の感動があれば、大丈夫だ。
世界がこんなにも美しいなら、何を迷う必要がある?




電撃文庫さん刊行、葉山透著『9S〈ナインエス〉』についての雑感を今回は綴っていきます。



Espliaのあらすじ

海上に浮かぶ、単体で全てのエネルギーを賄うことの出来る循環環境施設「スフィアラボ」。
かつて、人体実験などで悪名を挙げながらも、他の追随を許さぬ天才的な頭脳を持つ、狂気の天才、「峰島勇次郎」(みねじまゆうじろう)の残した遺産の一つであった。

とある事情から、そこでアルバイトをする主人公「坂上闘真」(さかがみとうま)は、ある日、武装テロ集団の占拠という事件に遭遇することで、大事件へと巻き込まれていく。


読み終わった感想は、「いろいろな要素が詰め込まれすぎていて、どこか全体的に薄っぺらな印象しか残らなかった」、と言ったところでしょうか。


筆者のあとがきでも触れられているように、この作品は、バトル要素、恋愛要素、SF要素、兄弟愛などなど、いくつもの傾向が見られる作風は、よく言えば実にウィットに富んだものと言えるでしょう


ただ、所謂ロストテクノロジーというSF理論性の強い武装を使ったバトルものは、触れればおしまい一発撃てば必殺、などなどイマイチ戦略性に欠けますし、10年もの間地下に幽閉されていた天才少女が、「手を差し伸べてくれた」という理由だけで主人公を好きになっていく過程などは、読み手の理解が追いつくレベルを逸脱しているようにも思えました。


また、そういったSFの要素がありながらも、古の流派を持つ一族の「血が覚醒」する、といったようなスーパーダッシュ文庫さんの『紅』に似た和風テイストなファンタジー要素が絡んでいることも、和洋折衷とは言い難い塩梅で「妙な苦味」を出してしまっているほか、上に挙げた数多の要素に、文章の大半が使い潰されてしまい、キャラクターのバックボーンがあまり語られず、感情移入がし辛い背景は否定できません


恐らくバックボーンについては、次巻以降に綴られていくのでしょうが、あくまで一巻だけを読んでいてはわかりませんからね。


筆者の有する知識を一つの物語に余すことなく注ぎ込む、その姿勢そのものは大変迎合すべき風潮だとは思えますが、こうも文章にムラが出てしまうと、素直に喜び辛いのが現状ですね。




もう一つ気になったのが、物語の「オチ」でしょうか。


よく、何気ない会話から状況打開の糸口を閃く手法は古典的ですが、真相の観点を変える、という点では、今作も同様、読み物として面白い効果を発揮していると思いました


ただ今作では、舞台である、単体で地球と同じように生活ができる「スフィアラボ」を筆頭に、「峰島勇次郎の遺産」という科学の上も上。未知の事象を魔法と呼ぶなら、まさにマジックアイテムのような性能を持った数多の機材が登場するため、驚きの結末を素直に楽しめませんでした


何かに例えましょうか。


死んだ人が生き返る」、これは我々人類にとってはたしかに凄まじい事象です。
通常、一度死んだ細胞が蘇ることはありませんし、時間が経てば酸素不足による脳死、血液の腐化など、様々な問題をクリアしなければなりません。

しかし、「魔法で」死んだ人が生き返る、という場合は、何がどう凄いのかが具体的にわからず、とりあえず「ああそういうことなの」と納得したような納得できないような微妙な印象しか残りませんよね。


すごい魔法からすごい奇跡が起こっても、我々はあまり驚けないわけです。


まぁ、その裏に、MP消費が激しいだとか、体力を奪われるとか、死の呪が術者に及ぶ、だとかのファクターがあるのかもしれませんが、それを我々が具体的に想像できない以上、そういうものとして納得するほか読み手に方法はありません。


今作の「峰島勇次郎の遺品」はまさにそれにあたり、オチとなる部分が「すごいことは感覚で解かっていても、理屈が追いつかない」ものであり、それゆえ、どう考えても現実的な解釈ではありえない部分への言及になってしまっており、不満が残りました。


SF要素を持った作品に言うべきことではないのかもしれませんが、もう少し現実的な、言い換えれば等身大の理論や動向に主軸を置いたほうが読み手の理解を得られたように感じられてなりません。


無論これはファンタジーの全てを「理解不能」として否定しているわけではなく、やっぱり魔法なら魔法についての架空の理論はそれなりの分量が欲しいですし、読み手の想像力を働かせる手助けとなる表現をもう少し模索して欲しかった、という本音ですかね。


読んでいて面白くない作品だとは思いませんでしたが、どうにも推すべき素晴らしい点が見当たらないボンヤリとした印象を最後まで拭えませんでした。





【総評】

バトル要素に恋愛要素、SF要素などなど、様々なジャンルの知識を惜しみなく投入した結果、動的な(アクション)要素が多分に見られる、アニメ映えのしそうな作品でした

しかし、そういった描写ばかりに文章の大半を使用したことで、登場する多くのキャラクターの心情、内情への言及。それぞれの背負う過去などに焦点があまり定まらず、物語への「のめり込み難さ」を感じました


また、オチに「峰島勇次郎の遺産」という魔法じみた(またはSF的な)要素を主軸として据えたため、全体的に奇抜かつ規模の大きな発想の光る結末ではあったものの、どこか納得しにくい部分が生まれてしまったことが評価を下げるポイントにもなってしまいました。


結果、全体的に特筆すべき良いポイントが見当たらない、という低めの評価に終始する今作ではありましたが、キャラクターのバックボーン、及び内情に、もう少しだけ文章量を肉付けすれば良い印象に転化すると思しき部分が多く見られ、一概につまらないだけの作品とは一線を画すもので、その点は留意していただけるとありがたいです。


もし気になった方がいらっしゃいましたら、それとなく購入を検討してみてください。







読了お疲れ様でした。
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獅子の玉座〈レギウス〉、雑感

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女神は同じだけ深い情愛をそそいでくださったのよ。
あたくしは、その情愛を信じるわ。

レオン。それが―――あたくしの、誇りよ。




電撃文庫さん刊行、マサト真希著『獅子の玉座〈レギウス〉』についての雑感を今回は綴っていきます。



Espliaのあらすじ

世界の全てを統べるとされる〈万界の王〉へ到る証、〈王獅子の至宝〉を求める者達がいた。

元海賊の傭兵「レオン」、故国を失い虜囚となった聖王女「アリアン」、兄への恨みを募らせる皇子「ユーサー」。
彼の者等は、各々確固たる思惑を持ち、「至宝」の探求へと乗り出していく。


今作の印象は、まさしく「コテコテのファンタジー」といったところでしょうか。


本編ではそれを象徴する、ファンタジー小説特有の「設定の深さ」が、まず強烈な洗礼を浴びせかかります


上記のあらすじで登場した、〈万界の王〉、〈王獅子の至宝〉などの単語のほか、〈大神アル=エル〉筆頭とする神々の名(七人分)、イラストページで紹介される主要都市、及び国名(9箇所分)、人種などなど、覚えるのに大変苦労する単語がワラワラ出てくるの様は、まさに圧巻でした。


「設定の深さ」、などと書いた手前で申し訳ありませんが、今回にのみ限り、良い意味ではなく、悪い意味に捉えていただければよろしいかと。


とにかく、物語全体の創世者である筆者の考える膨大な世界観を、まったく知識もない読者に数多押し付ける物語の構成は、はっきりいっていただけません
もしもストーリーの結末に必要な単語、設定ならば、それが必要となってくる段になってから、徐々に明らかにすべきでした。


特に今作は、物語の冒頭も冒頭。書き始めの部分にその要素を持ってきてしまったことで、読み手が最も本選びで重視する冒頭を小難しくしてしまい、相当の方が付き合い切れなさを覚えてしまったようにも思えました。


一応、第一巻から難解な設定、というと有名なライトノベルに『灼眼のシャナ』が挙げられますが、世界観に無知な主人公に、世界観を熟知したヒロイン(+α)側が講釈をする、という表現方法、ゆっくりとしたテンポで説明が挿入されたため、それなりにわかりやすいものとなっている点と、対照に位置しているともいえます。


特に「無知な何者か(灼眼のシャナで言う、主人公)」を用意することで、同じく設定など知る由もない読み手とリンクさせ、共感を得させる技法は、かなり安心感を生むことは言うまでも無いでしょう


その点今作では、登場キャラクターの誰もが世界観に熟知しているため、一人理解の範疇にいない読み手だけが必死にその会話に付いて行かねばならず、私自身、前半はかなりの苦行を強いられました


後半。物語が佳境に差し掛かり、ようやく今作の世界観が理解できはじめる頃になってくると、散々用意されてきた壮大な設定が息を吹き返し、躍動感のある面白い物語の展開をしていくため、なおさら前半の躓きにもったいなさを感じてしまいました。



物語そのものに関しては、「レオン」と「アリアン」の喧嘩腰の会話、「ユーサー」と腹心達の会話を筆頭に、なかなか軽妙な掛け合いが目を引きました。

また、かなり強烈な方向に「人の生き汚さ」を描き、丁寧ながらもどこか毒のある人物描写のクセもたまらない人にはたまらない出来栄えとなっているように感じられました。


性悪=現実的。とまで現実社会を蔑ろにするつもりはありませんが、こうした、ある意味でのリアルな人間模様が描かれていることは、ファンタジーの中にあって、その薬味のような辛味から、良いアクセントになっていると言えるでしょう。個人的に、この点はなかなか胸に来るものがありましたね。


結末が「やや」、というか、「なかなか」というか。理屈不明意味不明な展開を見せ、挙句なんの説明も用意されていないところが気に障りましたが、中盤から終盤に掛けての物語の展開、人間像の描き方は総じて高次元に纏まっていると評価できるでしょう


今後の展開にはそれなりに期待がもてそうですね。




【総評】

中盤、後半の展開の素晴らしさ。人の生き汚さをあえて正面に据えての人物描写の丁寧さが光る作品と評価できるでしょう。

後者こそ人を選ぶと思いますが、貧民、虜囚、戦争などのキーワードから連想される負の世界観が味わえる点は個人的には評価のポイントとなりました。


また「レオン」、「アリアン」など主要人物を筆頭に、決して表面だけの薄っぺらいものではない、信念の感ぜられる内面の描き方が、丁寧、かつ読みやすい印象が強かったように思われます。


ただ、こと序盤において。
カタカナの多い、いわゆる「覚えにくい固有名詞」が山ほど登場する点。加え、その単語の山が必要な時分にバラけておらず、一塊になっている襲ってくる点は、読み手の気力をモリモリ奪っていく原因となっており、「設定の深さ」が逆に仇になっていると見受けられました。


それさえ乗り越えれば、雄大な設定に彩られた物語を楽しめる分、先述した、この「難点」は、読み物としては致命傷となってしまっているとも言えるでしょう


難解な単語が山ほどあっても、気にせず読みつづけられる人はもちろん、ファンタジーに耐性があり、多少なり我慢強さがある人ならば、購入しても恐らく損はしないと思われます。


明確にオススメと表記はできませんが、気になった方は是非購入してみてください。





読了お疲れ様でした。
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文学少女と死にたがりの道化
中の下!
曲矢さんのエア彼氏


【プレイ中(&予定)ゲーム】
黄昏のシンセミア
elona
グリザイアの果実
はつゆきさくら【済】
穢翼のユースティア【済】


【鑑賞中音楽】
嘆きの音
Dead End
borderland
少年よ我にかえれ
ノルエル
灰色の水曜日


【オススメゲーム】
FLYABLE HEART
永遠のアセリア(なるかな含)
遥かに仰ぎ、麗しの
装甲悪鬼村正
Fate stay night(hollow含)
てのひらを、たいように
月光のカルネヴァーレ
君の名残は静かに揺れて
BALDRシリーズ(戯画)
ひぐらしのなく頃にシリーズ
うみねこのなく頃にシリーズ
東方シリーズ(SLG、文、WS含)
夜明け前より瑠璃色な
CROSS†CHANNEL
リトルバスターズ!
CLANNAD
STEINS;GATE


恒久的に不定期更新ですが、
よろしくお願いします。

週一更新005


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