espliaのちょっとだけ時代遅れ。

生むは雑感、生きるは過去、ちょっと遅れた感想中心ブログ。

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六百六十円の事情、雑感

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『カツ丼は作れますか?』




メディアワークス文庫さん刊行、入間人間著『六百六十円の事情』についての雑感を今回は綴っていきます。



Espliaのあらすじ


『カツ丼は作れますか?』

地域コミュニティのネット掲示板で書かれたこの一言をきっかけに、HN(ハンドルネーム)「ギアッチョ」「河崎」「ドミノ」「各務原雅明」の四人とその関係者達は、ある人間の起こすちょっとした事件に関わることになる。


入間人間といえば、電撃文庫さん刊行の『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の人気を博す御仁で、そのどこか世界を皮肉った言動に、正直あまり読んでいて心地の良い印象は受けなかったのですが、今作『六百六十円の事情』を一舐めして大分印象が変わりました。



まぁ、一言に「印象」、とはいっても、やっぱり世間や社会に対して斜に構えた文脈は、鉱脈で鉱石が取れてしまうほど意外性もなく見当たりますし、なぜか無職の人間にばかりスポットが当っていたり、家出だったり、万引きだったり、どこか暗い話題が目立つ雰囲気は相変わらずです



これだけ読むと、「何も変わってないだろ」といわれそうですが、少々お待ちを。


今回私が触れたいのは、あくまで「作風」ではなく、文章中には表記されない人間の描き方にあります。


例えば、本編で活躍するHN「ギアッチョ」さんは、無職でありながら、ギターを6年間弾き続けた功績が最終的には称えられていますし、一見して根暗そうな万引き高校生「河崎」さんも、一目惚れした「北本」さんと、なかなかうまく付き合っています。


何が言いたいか、と言うと。
今作が、相変わらず世間や社会をこっぴどく皮肉っている内容のわりに、こと人物像を描くとなると、その「現実味」がかなり大味に表現されている、ということが言いたいわけですね。



我々の日常に蔓延る悪意にやたらと敏感で、それに棘の効いた拳をずしずし打ち込むことを好む筆者にしても、やはり恋愛に対する甘い幻想を失っているわけではないし、昨今の若者ならば鼻で笑ってしまうような「夢」や「希望」という意味をそれほど嫌っていない、どこか若々しい香気が、意外にも今作には溢れているように感じました。


上に挙げた例に則っていえば、無職で、おまけに上手くも無いギターを弾き続けた「ギアッチョ」さんが世間から見向きもされなかったり、「河崎」さんが「北本」さんに、きもいの一言であっさり見限られたりする可能性の方が、幾分「現実」としてみたら妥当な線なわけです。


つまり、彼の作品には、厭世的な内容や皮肉に満ち溢れたリアリティをウリにしたような作風であるのに対し、人物の性格や言動、物語の発展の仕方が実に「ファンタジー」に溢れているわけですね。


リアリティとファンタジー、相反しながらも、決して矛盾しないであろう、その調律を白刃の上を渡るバランスで両立させた事は、今作で大きな評価点となりました



少々、文字に起こすには難解な話になりすぎましたので、この話題はここらで終えましょう。




シナリオに関しては、掲示板に興味をしめした四人の人間と、それに関わるいろいろな人との人間ドラマが主要となります。


ただ、どの話も、上記に記したような人物(無職だったり、万引き常習者だったり)が多いことから、「暗中模索の日々からの脱却」をテーマにした話が多く、冒頭の語り口が、現状への不満だったり、恐怖だったり、家族への愚痴だったりと、どうにも負の側面についての言及が多く、やや「ウジウジ」した物言いが目立ち、好き嫌いが別れそうですね。


また、あらすじでは、「ある事件に4人と、その関係者が関わる」というようなことを書きましたが、映画であるような、ひょんなことから壮大な事件に巻き込まれていく~云々というような大事ではなく、まさに「小事」というべきもので、壮大さに関して期待をすることは万が一にもオススメはしません



ただ、『カツ丼作れますか?』という言葉をきっかけに、各章でそれぞれを悩みに立ち向かっていった「主人公達」が一堂に会す場面は、特筆すべき盛り上がりこそありませんが、胸に染み入るような感慨が浮かびますし、先述した「人物像の描き方」がうまいおかげで、まるで手塩に掛けて育てた子供が巣立っていくような、一種満足感を与える構成は実に上手いと思いました。「派手さ」はなんてものはこの物語にはやっぱりそぐわない


プロローグを1、2と分けて書き、エロゲーの第一OP、第二OPのような(どんな例えだ)箔を付ける演出も、はっきりとした転換点としての役割を果たしていてなかなか好印象でした。



気になった点は、上記に記した四人が関わる「小事」が、ややあっさりと書かれすぎている、ということでしょうか。


その中でも特に「小学生が家出」、というのは文章として見た場合それほど特筆すべきものではないでしょうが、親から見れば、それは子供の生死に関わる大事で、「数日で帰ってくる」、という彼女の手紙があったとしても今回のように、やや緊張感に欠けた母親の言動はそれなりに違和感をそそられます。(親子二代に渡っての口調はこの際目を瞑りましょう)


娘のため、やたらヒステリックな人になってしまうと、話がどうしても深刻化してしまうので、あえてのあの言動なのでしょうが、もう少し「誘拐」のような負のキーワードとの化学反応をしても良かったのでは、とは思いました。


ただ、不自然ではあっても、今作の結末には後腐れの無い展開がよく合いますし、この点に関しては、あまり強く批判は出来ないのが実情で、あくまで気になったポイントとして留意してもらえれば良いかと思われます。


あとは、登場人物の一人であるはずの「中家ソウがあまり活躍しないことがちょっと気になりますね。まぁ、本当にちょっとですけど。




【総評】


作風は、世間を皮肉った内容、人間、家庭の暗部や心持への言及が多く、やや愚痴めいた内情が目に付きますが、登場人物の描写に適量の「ファンタジー」を混ぜ込むことで、釣りあいを取り、上手い具合にバランスを取った良作でした


語り口こそ悲壮感に満ちたものが多く、人を選びますが。各章に渡り、それぞれの「主人公」が見つける「希望」や「夢」が結末をしっかりと照らし出してくれるので、読了感はかなり良い余韻に浸れるでしょう


また特徴的な言葉遊びが多く、一部ダラダラとした印象を受ける場面もありますが、登場する人々は腹に一物ありながらも、黒さはなく、ドロドロとした人間関係や騙しあいなどとは全くの無縁であることも評価のポイントだと思われます


場面描写が少ないかわりに、人物の内面についての言及がかなり緻密に綴られていることで、ヒューマンストーリーとしての厚みも抜群ですしね。


感動! 号泣!


といった要素からは離れた作品ながらも、読み終わった後に静かな興奮と余韻に浸れるとても味わい深い作品ですので、気になった方は是非購入してみてください。

オススメです。





読了お疲れ様でした。




追記
Q、『カツ丼作れますか?』
A、『から揚げ丼ならなんとか』


追記2
「ドミノ」さんのおしゃまな、ですます口調、大きなリュックサック、つれない言動。
・・・・・・某「マイマイ」を思い出してしまうのはきっと化学反応なんでしょうなぁ。
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小さな国の救世主1【なりゆき軍師の巻】、雑感

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戦争ってのは個人でどうにかできるもんじゃないってことは、わかっているがな・・・・・・

個人の力でどうにかなる部分ぐらいは動かしてみたいと思っただけのことかもしれない。





電撃文庫さん刊行、鷹見一幸著『小さな国の救世主【なりゆき軍師の巻】』についての雑感を今回は綴っていきます。


Espliaのあらすじ

主人公「天山龍也」は、同じことを繰り返すだけの平凡な毎日に耐えられなくなり、「非日常」を体験するため、中央アジアの紛争地帯へのツアー旅行に参加することになった。だが、現地の骨董店とは名ばかりの店で身包みを剥され、シルクロードの間中に放り出されてしまうことに。

財布はおろか、パスポートや所持品のパソコンまで奪われ、絶望する最中。なぜか攻撃ヘリに追われる、二人の女性を乗せた車が近づいてきた。


読み終えた感想は、「主人公が気に入らない」、という一言に尽きますね。


まぁ、タイトルにもあるとおり、「いまどき軍師」ということで、現代っ子の日本人少年が軍師として奮闘する、という物語であることを一応は理解しています。

故、本編でさんざん罵倒される、龍也に「銃の使い方」や戦争というものについての「知識」が無いこと、口先が一丁前なのに自分の身一つ守れないことは総じて納得が行きますし、理解も及びます。そこは問題にもなりません。


問題は、例えば市街での戦火にあっても「俺の身を第一に守れ」とぎゃあぎゃあ喚いたり、妙に間違ったことを悟りが開いたかのように発言したり、少年特有の反抗期めいた行動原理が目立ったり、はっきりいえば「身勝手さ」、「性格の悪さが鼻につきました

前者ぐらいは百歩譲って目を瞑るにしても、後者は本当にどうにもならなかったのでしょうか。


更に言えば、そんな人間をさも「普通の高校生」と位置付けていることには違和感を覚えますね
言い方は悪いですが、こんなのを「標準」扱いしていることの裏に、昨今の中高生を蔑視している筆者の内情が見え隠れしているようにも思えてしまいました。


そういう意味ならば、主人公が気に入らない、というよりは「筆者の描く主人公が気に入らないと言い換えるべきかもしれませんね




筆者の押し付けがましさは、本編のいたるところにも見られます。


それは例えば、龍也の内心の語りに「俺は世界の紛争や事件を身近に感じられなかった大馬鹿者だ(意訳)」というような、どうにも勘違い甚だしい節や、銃を撃てない龍也に「お前は赤子と同じだ」と「サラサ」が罵るシーンなどが挙げられます。


前者にしては、テレビで放送された各地の紛争に対し、「身近に感じ涙を流すことが正しい」、と訳のわからない理屈が、さも正しいかのように語られていて不快感を煽ります

後者にしても、「銃も撃てない、馬にも乗れない」=「何も出来ない」という理論を兵役のない日本人にのたまったところでどうにもならず、本編で「知的」と評されるにはやや思慮に欠けた言動と評するほかありません。

解かりきっていることを言うメリットなど、憂さ晴らし程度しかありませんしね。


以上のことから、今作は「魅力的」とはほとんど無縁なキャラクターが主要人物の中に数人登場し、作品の評価が私の中で大きく下がったことは言うまでもありません



余談なので詳しくは書きませんが、日本人を「能天気な軟弱物」と決め付けたように書いてある節も存在し、憲法9条を掲げたことにより、兵役と一定の戦火から無縁となった日本の気風と風土に対して否定的な筆者の意見が垣間見えるのも、諸手を挙げて賛成し辛く、評価を落とすポイントになりえた部分も多く見られました。




唯一、ネット掲示板を使って、敵戦車団の対抗策を練ったり、対戦車ロケットを使った、トップアタック(戦車装甲の薄い上部への攻撃)を行う場面などは、総じてよく練られていると思いました。


ただ、常時戦火に曝される覚悟がキンリ族にはあった、という話があるにも関わらず「武器の貯蔵がほとんどないというのはかなり違和感を覚えました


一種宗教上の理由で禁じられていた、というならまだしも、軍人であるサラサを族長に近い姫巫女「リューカ」に護衛として付かせている以上ありえませんし、どうにも危機的状況をつくるためにわざと武器を制限しているように見えてしまっても仕方がありません


対戦車ロケットでトップアタックを行う、という策も、本営にジャベリンが数機あれば足りることですし、それが無いにしても、対物ライフルや重機関銃ぐらいは用意されてしかるべきでしょう。
また、戦車団との作戦にフラググレネードないしスモークグレネード、C4さえ無いというのはいささか以上に不自然でなりません


こういった点から、物語の設定にやや煮詰め不足を感じざるを得ませんね
ただこの点については次巻以降に説明される可能性があるので、今作でのみ強く言及する思惑はありませんのであしからず。



また音の表現を括弧書きで記したり、視点変更のため行間を空けていないにも関わらず、様々な人物の内情がト書きに記されていたり、どうにも読みにくい文章が多く、フラストレーションが溜りやすいのも難点でしょうか




【総評】


物語の進み方、結末、コンセプトはそれぞれ良いと思われますが、肝心の登場人物たちが妙に筆者の考えに汚染された言動が多く見られ、若干の押し付けがましさを禁じ得ません


特に主人公は、昨今のメディアで見られるいわゆる「ヘタレ」以前に、やや思春期にかぶれた言動と行動常識の無さや身勝手さが目立ち、読者の好みに大きく影響を与える人物になってしまっていることが残念でなりません。


せめて、何もできないが女性に対して優しかったり、芯が一本通った好青年にするなり、何かしらの非凡な才能があったり、「フィクションだからこそ出来る主人公像」というものをもう少し突き詰めて欲しかったですね。


たしかにリアルな世界観というものは、評価にし易いポイントではありますが、あとがきでことさらフィクション(作り物の物語)を強調するならば、読者に対してもう少し出来うる行動があったのではないかと勘繰ってしまいます。

「現実的(リアルさ)」をウリにするまえに、我々が読んでいるものが「小説」だということにもう少し意識を割いていただければ、娯楽作品として、もう少し上を目指すことができたかもしれません。



今作は全部で「三部」作ということですが、正直次巻以降への購買意欲が湧きませんでした



正直、なかなか残念な作品ですね。






読了お疲れ様でした。

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アリソン【第一巻】、雑感

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ああ――。 いい眺めだ。




電撃文庫さん刊行、時雨沢恵一著『アリソン』についての雑感を今回は綴っていきます。


Espliaのあらすじ

大きな河と山脈により分かたれた二つの連合国、「ロクシェ」、「スー・ベー・イル」。
果て無き闘争の歴史の中、わずかに訪れた平穏の時代。

ロクシェに存在する、「ロウ・スネイアム記念上級学校」の生徒である「ヴィル(ヴィルヘルム)」は、ロクシェ空軍の軍人である少女「アリソン」の訪問をきっかけに、ホラ吹きで有名な老人の言う、「戦争を終わらせられるほどの宝」を探すことになったのだが・・・。


少しマニアックな戦闘機ウンチク、生死を掛けたドラマに戦闘、笑い、恋愛要素も少々。
と、言った具合に、今作『アリソン』は一言では言い表せない多くの見所を抱えた魅力的な作品でした。


最近では、川上稔著『境界線上のホライゾン』などの作品もあるように、ライトノベル、と一言で括っても、なかなか煩雑な設定や伏線が散らばせられていて、とっつきにくい印象のものも少なくありません。
しかし、その点今作は、まさに「軽い読み物」としての「ライトノベル」の意味を忠実に踏襲し、誰でも抵抗感なく読める体裁を装っています


上記のあらすじだけを見てしまうと、専門用語が多いことから複雑な印象を持ってしまうかもしれませんが、結局のところ「一つの大陸にある二つの国が長く争っている」、ということだけを覚えれば問題ありません。


敷居はかなり低い目と考えてもらって間違いないでしょう。



あまり「この筆者だから~云々」と言ったような、やや偏見に近い完成で作品を見ることは控えていましたが、今作においては、まさに時雨沢恵一氏特有の面白みが強く香ってきたように思います。


戦闘機の知識、食事の描写、人物描写、どれをとっても非常に表現の幅が広く、語彙の豊富さが目立ちます。


何よりすごいのは、その豊富な語彙を見せびらかすための「意図的に難しくした文章」にしないよう、理解に及ばない造語を使わず、難しい漢字を使わず、我々が読んで普通に理解できる範疇を決して逸脱していない点が挙げられるでしょう


ライトノベルにのみ言えることではありませんが、上記に挙げた『境界線上のホライゾン』、ノベルゲームで言えば『いつか、届く、あの空に。』や『最果てのイマ』など、ある程度の予備知識(※)がないと本筋を理解するのにもそれなりの時間が掛かる物が少なからず横行しています

  ※何が一般知識か、という点は多々解釈があるものなので、言及は避けます。

難しいものが一概に悪い、というわけではありませんが。誰でも違和感無く読める作品にこそ高評価をつけたくなります



キャラクター描写において、おしゃま、というより傍若無人な性格のアリソン、それに家来よろしく付き従いながらも、決して卑屈ではないヴィル、女ったらしの気障(きざ)軍人でありながら根は実直な「ベネディクト」など、表向きの言動と、内に秘めた思いのギャップのあるキャラクターが多く、「厚み」が感じられるのは注目すべきポイントですね。


ヴィル、アリソン側の敵として登場し、ビジュアルも一見強持てのベネディクトが「この・・・。くそう・・・。」などとぼやきながら、必死に河川を下っていくシーンは個人的に気に入っています。


何より主人公側のヴィル、アリソンの掘り下げがキチンとなされている上、ベタベタとくっついている訳ではないのに、互いが互いをどれだけ大事にしているか、が非常に上手く描かれていて、彼らの一喜一憂を含め、物語を一層面白いものに昇華している点は見過ごせませんね。


全編通し、キャラクターの色彩がはっきりと出た軽妙な会話、またそれに派生した言外の感情表現の丁寧さも光ります。


常々私ののたまう、「ヒューマンストーリーとしての厚み」というものが今作にはたっぷり詰まっていると言えるでしょう。


どこをとっても完成度の高さが伺える出来栄えに終始しています





ただ、唯一、苦言を呈するポイントがあるとすれば、物語の結末でしょうか。


ヴィル、アリソンが本編を通じて探す、曰く、「戦争を終わらせられる宝」という謳い文句にケチをつけることはしませんが、やはり「宝」そのもののインパクトは、読み手にとってそれほど大きいものではなかったと思われます


両国のシンボルについてきっちり言及している点や、本編を通してさりげなく解釈が載せられていたりすることなど「伏線」も「目の付け所」も「考え方」も実に明解です
読み手に筆者の考えを十二分に伝えきれたと言っても的外れではないでしょう。


ただ、問題はそういった伏線を仕掛ける土台。もって言えば、タネの下地。これがやや「あさっての方向」を向いてしまっている印象がありますね。


どちらが先に生まれたのか。


という論旨は理解できますし、少なからず両国に歪を与える要素であることも疑いません。
しかしそれが、あたかも「戦争のきっかけ」という扱いにされると、どうにもピンときません


非常に稚拙な発想で申し訳もありませんが、それが例えば「両国それぞれの主宗教のシンボル」というぐらいに決定的なものであったならば、「宝」に関する読み手の印象がもう少し現実よりになったのではないかと考えてしまいます。


しかし、この点に関しては、アリソンが「想像していたのと違う(概要)」などと本編でほのめかしているように、見つけた「宝」が「受け手によっては印象が薄くなる」、という前提が、やはりに筆者あったと推察されます


あえて、そういった「宝」を用意した理由については憶測も推測もし難いものではありますが、なんらかの意味があるのだと見て間違いないと思われます。


勿論、単に「万人が納得できる宝など存在しない」ということなのかもしれませんが。





【総評】


厚みのあるキャクラクターが活躍する、笑いあり、涙あり、戦闘あり、愛ありの冒険活劇の傑作です。


豊富な語彙と表現の幅を持ち、数多くの著書を手がけながら、理解し難い内容を読み手に一方的に押し付けるのではなく、万人に理解を得られる、筆者の丁寧な執筆姿勢に頭が下ります。


上記に記したように、結末こそやや衝撃からは遠い内容ではありますが、「宝」に到るまでのヴィル、アリソンの行動、マクミランという人物への言及、どれをとっても非常に丁寧な物語の練りこみに好感が持てます


表紙や挿絵の関係から、一般の方にもオススメとまではさすがに言えませんが、内容はまさに「健全」で「健康的」です。


一概に「性欲」、と断じてしまうのも甚だ不遜ですが、そういった関連から「ハーレム要素」、「お色気要素」が無いとライトノベルを楽しめないという人であっても、その認識を塗り替えられるほどに地盤のしっかり作品ですので、気になった方は是非是非、読んでみていただければ幸いです。


オススメです。




読了お疲れ様でした。




追記

更新がかなり遅れてしまいました。申し訳ありません。
ここ数週間は事情により更新が遅くなることがあると思います。
ただ勿論、一週間に一記事をやめるものではありませんので、以降もよろしければお付き合いください。
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B.A.D.【第一巻】、雑感

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胎盤? 似てるかな、似ていないね?
あぁ、それとも、胎児? 経血?

そんなことはないさ、これは「チョコレート」だよ。



ファミ通文庫さん刊行、綾里けいし著『B.A.D.1 繭墨は今日もチョコレートを食べる』についての雑感を今回は綴っていきます。


Espliaのあらすじ

紅い唐傘にゴシックロリータで着飾った少女、「繭墨(まゆずみ)あざか」。
チョコレート以外を決して食そうとしない、どことなく浮世離れした雰囲気の彼女が運営する『繭墨霊能探偵事務所』に勤める「小田桐勤(おだぎりつとむ)」は、彼女が好む、常識では考えられない怪奇事件に次々と関わっていくことになる。


全体的な雰囲気は、カバー裏に書かれた「ミステリアス・ファンタジー」が適用されるでしょう。


ただ、全体的に筆者の考えた、どこか「ネジの外れた理屈」が横行する作風に加え、「残虐描写」や「醜悪な想像」が全編に渡って幅をきかせているので、ある程度の「倫理」を作品に求める人は読むべきではないでしょう。

「ミステリアス」という部分には同意しますが、ファンタジーというよりは、江戸川乱歩の妖怪話、怪奇たん的な雰囲気といえば解かり易いでしょうか



正直に言えば、今作はそう言う意味で「甚だ読者を不快にさせる要素」が満載されており、また昨今ライトノベルに見られがちな外見や行動からキャラの「異端性」を主張している傾向が強く、「ゴシックロリータを着た怪しげな少女うんぬん」、という時点で眩暈を感じてしまう人は当然、読了は不可能に近いと思われます。


個人的には、「ゴジックロリータ」「紅い唐傘」というアイテムを用いた個性の主張も許容の範囲内ですが、本編の「チョコレート以外をほとんど口にしない」というあまりに人間離れした日常生活には、魅力以前に親近感さえ沸きません


外見だけをどう見繕っても、やはり内情を感じさせる「人間の部分」は必要不可欠な魅力ですし、それを個性のために犠牲にした作風は好ましくありません。



一種、「記号」だけを照らし合わせた場合、今作は富士見ファンタジー文庫さん刊行、桜庭一樹著『GOSICK』と似通った部分がそれなりにあります。

例えばそれは、本編の主役たる少女は誰よりも賢く、服装はどちらもゴシックロリータを基点とする様相が主だったり、甘いもの以外は摂取したがらない性分(※)や一見して残虐に見える性格だったり、リアクション満載の若い男の助手がいたり、枚挙に暇がありません。


  ※デスノートの「L」を筆頭に、頭脳労働=糖分というのは昨今よく見られる図式ですね。


しかし『GOSICK』に比べ、今作『B.A.D.』は、事件解決に到るまでの論理が非常に「非現実的」かつ「推理不可能」なレベルに終始しているため、各物語に伏線と思しきもの文脈が多数存在し、最終的に理解は出来たとしても、「納得は出来ない」という部分が多いように思われます。


簡単に言えば、伏線を読み返しても面白くないわけですね。


まぁ、もともと「霊能」という属性は「ミステリー」と程遠いものですし、全体的な印象を「ミステリアス」と前述したこともありますので強くはいえませんが、もうちょっと現実的なトリックを用意するなり、霊的な要素を使用するにしても、解法に到るまでの手法はもうちょっと読者に飲み込みやすい形で提供するべきだったかな、と思わずにはいられません。


最終章で取り上げられる、二人の繭墨あざかの真偽であったり、繭墨あざかの殺人疑惑についての「タネ」が、どこか見たことのある展開であることも、個人的には残念でした。


繭墨あざかは、本当に人を殺したのか――?


という物語の練り方をしておきながら「そう、その通り!」という結末に落ちつくわけもないでしょうに。似たような容貌で、口調で、となれば結末に驚けるわけもありません。


ちなみに、どこかで見たことがある、というのは言わずもがなTYPEMOONさんの『月姫』、そしてLeefさんの『痕~きずあと~』ですね。


夢の中で人を殺している、俺が犯人なのか――?


という「語り口」も「結末」も実にウリ二つ。


勿論、何歩かは譲りますが、上記二作品にまったく造詣がない人ならば、驚愕の結末、なんてレッテルもあながち不自然ではないかと思われます。



無論、こういった一巻の全てを使って最後の最後に「驚きの結末」を用意するのも面白い読み物の常套手段として有効だとは思っています。


ただ、私としてはむしろ主人公である「小田桐勤」という人間性や過去に、もう少しスポットライトを重点的に当てた上、「静華」、「雨華」などの要素に重点を置けばヒューマンストリーとしての奥深さも兼ね備えられたのではないかと感じてしまいました。


特に「繭墨あざか」は計413ページという分厚い単行本の中、文章化された内面描写が一切無く、正直に言って「好きになれない」ように作られたキャラクターなんだな、という感想にしか終始できなかった為、最後だけ彼女の家や血筋に重点を置かれたとしても、素直に感動はできませんでしたね



若干愚痴っぽくなってきましたので、悪い点、残念に思った点についての言及はここまでにして、見所についても綴っていきましょう。


やはり今作の魅力といえば、「奇抜な発想力」。これに尽きますね。


上記ではかなり毒を含ませた物言いをしましたが、全て独自の考えから、名作である『月姫』『痕』と同じアイディアが浮かんだのだとすれば、恐らく執筆するにあたって相当結末を練りこんだことは容易に想像できることは言うまでもありません。



また重要性の高い要素に「小田桐勤」という男性が性交渉無し子供を孕むという描写があることも注視すべきでしょう


性交渉の有無に関わらず、男が子供を孕むということに、もちろん現実味はありません。

しかしこれが、マリアがイエス・キリスト(神の子)を孕んだとする聖書に則った「処女懐胎(しょじょかいたい)」がモチーフとなったものであろうと推測すればどうでしょう。


本編において、生みの親である「小田桐勤」当人を含め、孕んだモノが明言された理由もなく鬼、と認識される因子が「性別に因るものである」ということ。
これが暗に物語の裏側で語られているとすれば、筆者の物語作りにおける情熱の一端を直視したようにも思えないでしょうか


明言されている結末や、伏線は言うまで無く重要ですが、こういった語られない部分での物語の厚みというのは、やはりいつ見ても胸が躍るものです


人が全力で作ったものを全力で味わっているように思えますからね。


繭墨と小田桐の上記に引用したような、軽妙な掛け合いの奇抜さを含め、筆者の今作における熱意と発想力は否定できるものではないでしょう




【総評】


食人(カニバリズム)、飛び降り自殺、ストーカーまがいの狂人などなどの題材を取り上げており、全編を通して、「倫理観」「論理性に乏しい物語が多く見られます


それに伴い、多くの伏線が本編に用意されていても、納得できない部分が多く存在し、反感を覚える人が多いのではないかと予想されます。


本作は「ミステリー」ではなく、あくまで「ミステリアス・ファンタジー」という趣旨であることに最低限留意してください。
似た記号を有する、桜庭一樹著『GOSICK』とは全く様相が異なるということも明記しておきます。



本筋に関しては、413ページという文量を使ったにも関わらず、結末にやや他の作品との類似点が認められ、新鮮味が薄いことが残念な点として挙げられるほか、魅力的なキャラクターが多いわりに、内面についての言及が少なく、ヒューマンドラマとしての希薄さが時に物語を薄くしてしまっているように感じられました。


特に繭墨あざかに関しては、主人公格の扱いのわりに、結局最後の最後まで「不思議な人」以上の感情を抱けず仕舞いだったことも、大きく評価を下げたポイントであることは間違いありません



ただ上記にも記したように、男性の懐妊などを含め、筆者の「発想力」そのものには偉大なものを感じる場面が多く、本編に明記されているだけの伏線や結末だけでは見えてこない、筆者の作品作りに書ける情熱は、他作品に劣らず顕著に表れていると言えるでしょう。


正直、苦手意識が先行してしまって私はあまり楽しめませんでしたが、読み応えのある作品ですので、気になった方は購入してみてください。




読了お疲れ様でした。
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機械じかけの竜と偽りの王子【第一巻】、雑感

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・・・・・・僕はアルトゥール。フランシスカの兄です。



電撃文庫さん刊行、安彦薫著『機械じかけの竜と偽りの王子』の雑感を今回は綴っていきます。



Espliaのあらすじ

機巧鎧(アームネイン)と呼ばれる、機械じかけの巨大兵器が戦争の主力だった時代。
王都リュクサリアに侵攻を開始した隣国、オルガントを食い止めるため、リュクサリア側に従軍していた戦争奴隷の「イアン」は自軍の敗北により、闇夜の森を一人で逃亡していた。
その最中のこと。
闇夜を割き、突如見たことも無い、白銀の機巧鎧(アームネイン)が「イアン」の前に降り立った。そして脚部を損傷したためか、疲労からか、意識を朦朧とさせながら搭乗席から出てきたのは、なんと見たことのない美しい少女だった。


全体的な印象は、前回書かせていただいた『銃姫』同様「ファンタジー」ですが、こちらは機巧鎧という非常に近未来的な要素を併せ持った分、「油臭さ」が強いように感じました。


また、大国同士での戦争が話の舞台であるため、人の生き死に関わる「血生臭さ」も全章に渡って濃厚に言及されていますので、苦手な人は注意してください。


また本作は独自の物理、魔法的理論の記述が少なく、純粋に「我々が知る物理法則」、尺度で物語を楽しめるので、「設定が複雑で意味不明」という取っ付き難さや、難解さとははほぼ無縁です


ファンタジー作品としては、幾分以上に「読みやすい」印象が強く、万人向けな作品だとは思います。



さて、本作で多く搭乗する兵器、「機巧鎧」は、陳腐に言ってしまえば「でっかいロボット」的な見た目ですが、あくまでの本作のコンセプトでは「でっかい鎧」と見てもらって間違いないと思います。


無論、大きくとも鎧、ということで、銃器をバッカンバッカン、大砲ドンドコというような遠距離戦が本分ではなく、あくまで「槍」や「剣」、兵法を駆使して戦う中世的な戦闘手段が主流です。


これは、一部確かに存在する、「ロボットもの」の面白さがイマイチ理解できない、という人でも違和感無く物語に入り込めるほか、「三国志」のような兵法を主軸とした戦運び、戦術が大好物の人にはたまらない出来栄えとなっていて、非常に出来の良い部分だと言えるでしょう



また、本編の主人公たる「イアン」が、戦争奴隷という立場から、王女「フランシスカ」の兄である「アルトゥール」を演じる、という流れも、「普通の少年」が奇異な事件に巻き込まれていく、「巻き込まれ型」と呼ばれるライトノベルの王道を忠実に踏襲していて、読んでいて久々に血が騒ぎました。


言ってみれば彼は、王女の勘違いから流動的に戦場に連れ出されてしまった「被害者側の人間」。
それが恨み言一つ言わずに懸命に役割を果たそうと奮起する姿はなかなかのもので、敵方の将との一騎打ちを要求された際、上記のセリフを呟いて立ち上がる姿はまさに主人公


常々、読み手との共感性について重要視している私にしてみれば、カタルシスを感じざるを得ない状況だった、といっても間違いはないでしょう。



主人公以外にも、王女フランシスカ、近衛兵「エリック」、「ヴィクト」、「リュクサイア5公」と言われる王都の幹部五人(一部)代理)の心理描写なども省かずにきっちりと描き、「誰の」「どんな思惑で」「どんな結末を辿ったのか」が逐一解かるようになっているのも憎い演出で、筆者の物語作りの丁寧さに好感が持てます


第一巻ではあまり内面描写のなかった「ミリアム」や「メイ」も、次巻以降、更に活躍してくれるだろう、という期待を抱かずにはいられませんね。



唯一、本編で気になったのは、「この戦いは後に~と呼ばれている」や「~と~は今後も活躍する兵士になることになる」などとという描写が戦争前に入ったことで、第一巻の主軸たる戦役が、「リュクサリア側が優勢で終結した」、ということが早々にバラされてしまったことが挙げられます


無論、ライトノベルと言わず、文学作品、メディア全般にいえることですが、一巻にして主人公が死亡してしまう、という話の運び方をする筆者はほとんどいないことは理解しています。


それでも、今後「どうやって勝ちに持っていくのか」を、ト書き部分を含めての流れを読んでいる側からしてみれば、答えを先に見せられてしまうのは少々期待から外れてしまった印象を拭えません


最後の最後で、「これは前哨戦に過ぎなかった」というようなことを書かれれば、次巻への期待を持たすための演出の一つといえますが、戦争がはじまる、さぁ、この時! というところで意表を付くように書くのは、小石を足先に置かれたような微妙な不快感に似たものを覚えざるを得ません。


これさえなければ、舐めるように読んでしまえた出来栄えの作品だっただけ、残念さも一入、といったところでしょうか。



【総評】


機巧鎧というロボットのような兵器が活躍しながらも、人を選ばないクセのない物語運びがウリだと言えるでしょう。


ファンタジー作品にありがちな専門用語や筆者独自の理論や世界構造への言及もほとんどなく、「読み易さ」という点では群を抜いて優秀だと思われます。



銃器を用いない、剣や槍、兵法を用いて組織的に戦う、中世的な抗争が好きな人にはたまらない描写が数多くある点も見逃せないポイントで、人の生き様や、良くも悪くも人間らしい心理の描写も、物語を引き立たせる「調味料」としての役割を果たしていると見受けられました。


それに準じ、登場するキャラクターは皆個性があり、それぞれに自然と愛着が沸いてしまうほど緻密な描かれた心理描写の丁寧さは素晴らしいの一言です。



一部、先が読めてしまう「ネタばらし」のような行間が入る点は、苦言を呈したくなるものではありましたが、作品全体の質は相当高いものだと言って間違いないでしょう


気になった方は是非読んで見てください。

オススメです




読了お疲れ様でした。



追記

最近購入した小説に「当り」が多く、嬉しい反面、どんどん「当り」を引いて行くことで、残された作品に「はずれ」が多いような錯覚を起こすことがあります。

なるほど。

これが、相対性理論か(なんのこっちゃ)

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